HIKOJU MAKIE

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www.hikoju-makie.com

漆芸作家である若宮隆志氏が率いる漆芸アート集団彦十蒔絵のメンバーとして蒔絵製作に携わらせていただいております。
2017年、彦十蒔絵と日本の現代アーティスト・小松美羽氏とのコラボレーション企画に際し、原画を蒔絵で再表現する作品のご依頼をいただき、チャレンジいたしました。
その製作の流れをご覧ください。

↑2017年12月に開催された企画展のパンフレット。掲載された蒔絵漆芸額「幸せに生まれ、幸せに栄える」の制作の様子をご紹介いたします。
アクリル絵の具を使用した鮮明な色使いと、躍動感のある神獣が目に飛び込んでくる原画を、どのように蒔絵で再現できるのか?今までの蒔絵の常識を捨てて挑みました。

打ち合わせ

原画の資料を共有して、どのような蒔絵のイメージに仕上げるのかを具体的に打ち合わせしていきます。「ここに明るい色使いに仕上げたい」「この部分は螺鈿、卵殻を使ってほしい」「艶をあげずにマットな仕上げがいい」などのご要望をいただき、どんな蒔絵技法が合うのかを検討してきます。

打合せをしながら赤ペンで、蒔絵のイメージや技法を、原画コピーに書き込んでいる様子

初めての技法や表現が必要となり、本番に取り組む前に、部分的に試作を行い、イメージ通りにできるかどうかを、共有していきます。
(技法の内容、スケジュール、ご予算によって、このような試作を行う場合があります)

神獣の瞳の部分の試作。2.5cm程度。原画の瞳の輝きを、蒔絵材料をどう組み合わせたら再現できるかを試していきます。
材料:卵殻、螺鈿、玉虫の羽根
神獣の背景の炎にあたる部分の試作。
炎のような表現は、金粉と色漆で作ってみましたが、少し迫力に欠けるようです。さらに効果的な技法を検討します。

製作開始

打ち合わせや試作でイメージ・技法が固まったら、本番の製作を開始します。

  1. 原画を漆芸額(パネル)のサイズに縮小し、鉛筆の線で紙に図を写していきます。
  2. 紙を裏返して漆で鉛筆の線をなぞります。
  3. 漆のついた面を下にして、パネルに紙を置き、こすりつけると、漆が転写されます。
  4. 白い粉をつけると、パネルに下書きの白い線があらわれます。

下図を転写して、作業を開始します
瞳の部分に「卵殻」という技法を行っていきます。

「卵殻」…うずらの卵の殻を漂白し、細かく割って、漆を塗ったところに1つ1つ貼っていく技法。

漆は顔料を混ぜて様々な色漆が作ることができますが、真っ白だけはできません。もともとの樹液が茶褐色なので、白い顔料を入れるとクリーム色になります。そのため、真っ白を表現したい時は、卵の白さが効果的です。

背景となる部分に金粉を蒔く

炎のような背景の描写を、金粉の強弱で描いていきます。
光の強いところには、沢山金粉を蒔いて濃くし、弱いところには金粉を少なく蒔いて薄くすることで、陰影をつけることができます。

ここからの作業は、原画をよく観察して、どこを強調したいのか、バランスを考えます。行き当たりばったりでは、仕上がりが単調になってしまうからです。

金粉を蒔いた部分に色漆を塗る

原画を見ながら、金粉の上に色漆を塗っていきます。試作の時には迫力が足りなかったので、大胆で勢いよく見えるように心がけました。

色漆は、時間をかけて1色ずつ自分で漆と顔料を練り合わせ調合します。チューブに入った既製品も売っていますが、色味、乾き方、塗った時の滑らかさなどは、自分の使いやすいように調合すると、仕上がりが思い通りになります。

神獣の瞳の部分に螺鈿や切金を貼ります

試作を参考にしながら、 瞳の部分に色々な材料を漆で貼っていきます。

螺鈿は、一枚の材料の中に、緑色の部分とピンク色の部分が混じっています。ひと手間をかけて色分けして使うと効果的です。

神獣の体に金粉を蒔きます

金粉の上に色漆を塗る場合、色味を強く出したい時は、金粉は薄めに蒔きます。

金粉は蒔いただけの時は、このようにざらざらした黄色い粉の状態です。その上から半透明の漆や色漆を塗り込み、研いで磨くことで、初めて金の光沢が出ます。

神獣の体に色漆を塗っていきます

色の重なりやグラデーションを捉えながら、細かく塗り分けていきます。

色漆は、乾かし方で同じ漆でも違う色味になります。また、乾くと塗った時より少し色が暗くなりますが、日数が経つとともに、色が鮮やかに冴えてきます。
そうした色漆の性質を理解し、仕上がりの色味を想像して塗っていきます。色味は原画に近づけるかを左右する重要なポイントです。観察力とバランス感覚を要する難しい作業でした。

神獣と背景を研ぎ出し、磨きます

「研ぎ出し」とは、炭やペーパーで水を付けて平滑に研ぐことです。
今回のように金粉に色漆を塗り込んだものを研ぎ出すと、角度によって色が強く見えたり、金が強く光って見えたりします。
磨くと色味や金の光沢がはっきりしてきます。

首飾りの立体的な蒔絵表現

首飾りの部分を金粉で描きます。
原画では、アクリル絵の具を盛り上げたような表現だったので、漆でも盛り上げる技法を用いました。

黒漆で神獣の毛並みの線を入れていきます

パソコンで原画を拡大して見比べながら、細かく毛並みを入れていきます。

黒い線の上に、金の線を重ねて描き入れます

神獣の毛並みは、原画をよく見ると、黒、金、銀の線が重なっていることがわかります。 瞳の部分にも色々な種類の金粉を蒔いて仕上げていきます。

銀の線をさらに重ねて描きます

根気よく描いていきます。
漆は、絵の具のようにさらさらではなく、粘性があるので、筆をゆっくりと動かして描くため、これだけの分量の線を描くのはとても時間がかかります。

さらに奥行きを出すために、色の線を描き足して仕上げていき、完成です。