蒔絵は筆に漆を含ませて⽂様を描きます
特殊な形で種類の多い蒔絵筆
粘り気のある漆
使いこなし自由に描くには訓練が必要です。
螺鈿(らでん)
はじめに天面のアーチの部分に螺鈿を貼ります。
薄くシート状に加工されたアワビ貝を、青く綺麗に光る部分だけをより分けて細かく割って大きさを揃えます。貼る部分に黒漆を塗り、1枚ずつ隙間なく貼っていきます。
置目(おきめ)
螺鈿の部分が完成したら、側面に取り掛かります。
置目紙という蒔絵用の図案紙に図を鉛筆で描いて、裏返して漆で鉛筆の線をなぞります。漆で描いた方の面を器物に載せて刷毛で転写し、胡粉という白い粉をつけて、線を見えやすくします。
地塗り(じぬり)
金粉を蒔きたい部分を、蒔絵筆に弁柄漆(弁柄の粉を漆に練り混ぜた漆)を含ませて塗ります。
⾦粉をムラなく蒔くために、薄く均⼀に塗ります。
蒔絵筆は元々⿏⽑でしたが、現在は猫⽑が⽤いられています。
漆の粘度が⾼いので、その粘りに負けない強さと弾⼒があります。
粉蒔き(ふんまき)
地塗りした部分に粉筒(ふんづつ)という道具を使って、陰影をつけながら⾦粉を蒔きます。
粉筒は、先端に布を貼った芦の筒で、中に⾦粉を⼊れ、筒を指で叩き、⾦粉を振るい落として蒔くことで、均⼀に蒔くことができます。
粉筒は、筒の太さや先端の布の荒さを変えることで、蒔く量を調節することができます。
市販品もありますが、より緻密に表現するために⾃作します。
粉蒔きを終えたら、十分に乾燥させます。
写真の黄色い部分は純金粉、青みがかった部分は青粉(金と銀などの合金)です。
漆の乾燥は、湿度60%以上が必要です。湿箱(しめばこ)という木箱を湿らせて湿度を与えた中に器物を入れ、乾燥を促進させます。
塗込み(ぬりこみ)
粉蒔きした部分を漆で塗り込みます。基本的に、金粉上は透漆(半透明の茶褐色)、青粉の上は黒漆を塗り込みます。色付けしたい場合は、色漆(顔料を透漆に練り混ぜた漆)を塗り込みます。
塗込みを終えたら、再び十分乾燥させます。
炭研ぎ(すみとぎ)
塗込みした部分を、駿河炭 (するがずみ)で平滑に研ぎます。
駿河炭は油桐の木で、漆塗りを研ぐためにやわらかく焼き上げた炭で、小口の面を使います。
研いでいると炭の形が変形してくるので、まめに砥石に擦り合わせて平面を保ちながら研ぎます。
塗込みした漆と金粉が平滑になることで、光沢が出ます。
耐水ペーパーでも研ぐことはできますが、細かな凹凸を完全に平滑にすることが難しいので、駿河炭が適しています。
胴擦(どうずり)
生漆(きうるし)を擦り込んで乾かします。
油と砥の粉を混ぜ合わせたものを布や皮につけて全体を擦り磨くと、光沢が出ます。
艶上げ(つやあげ)
生漆を擦り込み、油を器物に薄く塗り、磨き粉をつけて手で擦り磨く作業を行って、鏡面のように光沢が出たら、完成です。
完成(四季草花螺鈿蒔絵⾹合)
瑞々しい四季の移ろいが楽しめる作品を制作しました。
天⾯の螺鈿は、花々の中に掛かる橋をイメージしています
筆で描くこと
「漆絵や金粉を使った技法には、筆の訓練と、漆の調整が大切だ」と弟子入り時代に教わりました。
螺鈿や卵殻などの貼りものは、材料の貼り方で奥行きを出しますが、漆絵や金粉でいろいろな表現をするには、蒔絵筆や漆の特性を理解し使いこなす必要があります。
漆は粘りがあり、描くときにはゆっくりと運筆します。奥から手前の方向にしか筆を動かすことができないので、器物を持った左手を回しながら描きます。
また、技法によって、描いたときの漆の厚みもコントロールします。
例えば「毛打ち」という線描きの⼯程で、最後の仕上げ線をくっきりと目立たせたい場合は、粘性が高い漆を混ぜることで肉もちを良くする、といった調整を⾏います。
さらに、漆は梅⾬どきなど湿度によって乾き具合も違うため、使いやすいように季節の変わり目に漆を調合する必要もあります。
失敗と経験を繰り返しながら、これからも筆づかいを大事にした作品を生みたいと思っています。