⽂様を盛り上げて作り出す三次元の世界
漆の陰影や
金粉の光沢で浮き出る
独特の存在感を作品に生かします。
型紙の作成
はじめに盃のカーブに合うように紙を貼り合わせた型紙を作ります。
大まかに円に切った置目紙(蒔絵用の図案紙)を濡らして盃に貼り付け、その上に補強のため美濃紙を糊で貼り付けて乾かします。
出来上がった型紙に鉛筆で図を描き、裏返して漆で鉛筆の線をなぞり、再び裏返して器物に載せて刷毛で転写します。
炭粉上げ(すみこあげ)
金粉を蒔く前に、花びらの重なりを立体的に見せる炭粉上げをします。
炭粉上げは、立体的に盛り上げる高蒔絵技法のひとつで、複雑な凹凸を自在に作ることができます。
まず高蒔絵漆(黒漆、弁柄粉などを練り混ぜて調整した漆)を用意します。
盛り上げたい部分に高蒔絵漆を厚めに塗り、炭粉を蒔きます。
高さを出したい時はその上に重ねて2~3度繰り返したあと、漆で塗り固め、乾いたら駿河炭や耐水ペーパーなどを使って研ぎます。
研ぐことで凹⾯を整形することができるので、花弁のしわや重なりを細部まで表現できます。
粉蒔き(ふんまき)
炭粉上げした部分に薄く漆を塗り、金粉を蒔きます。
花弁の陰影に合わせて、金粉の蒔き加減に濃淡をつけます。
塗込み(ぬりこみ)
全ての花弁を粉蒔きしたら、しっかりと乾燥した後、全体を透漆で塗り込んで、駿河炭で研ぎ出します。
胴擦(どうずり)
生漆を擦り込んで拭き取り乾かした後、油と砥の粉を混ぜ合わせたものを布や皮につけて、磨きあげます。凹凸があるので、強く磨くと高く盛り上がった部分が剥げてしまいやすいので、注意します。
シベの部分に螺鈿を漆で貼り、仕上げの線を描き金粉を蒔きます。
再度、胴擦をします。
艶上げ(つやあげ)
生漆を擦り込み、油を器物に薄く塗り、磨き粉をつけて手で擦り磨く作業を行って、鏡面のように光沢が出たら、完成です。
完成(蒔絵盃 ⽉華)
見ている間に⾹りが漂い咲き開いたかと思うと、⼀晩のうちにしぼんでしまう儚い花、月花美人。
夜の闇にくっきりと浮かび上がる花弁を、肉合研出蒔絵(ししあいとぎだしまきえ)という技法で表現しました。
※肉合研出蒔絵とは、文様を盛り上げる高蒔絵という技法の中でも、高低差のある複雑なレリーフを表現することができる、最も高度な古典技法です。
炭粉などで高蒔絵を行ったあと、全体を塗り込んで研ぎ出します。
肉合研出蒔絵を研究する
美術館へ行くと、印籠や硯箱などに、どのように作ったのか?と目を見張る存在感の肉合研出蒔絵が施された古典作品と出会いますが、そのような表現が現代ではあまり見かけないのは何故だろうと疑問に思っていました。
私にとってこの表現の1番の面白さは、触っても少ししか凹凸を感じないのに、見た目には深い奥行きを感じることです。このレリーフ状の装飾が、手に触れて使って楽しむ器や用具と一体になった表現であることが、彫刻作品などの造形とはまた違った、工芸ならではの魅力ではないでしょうか。
まだまだ試行錯誤ですが、これからもこの表現を研究して、現代のモチーフを描いていきたいと思います。